カンボジアの暦から‥‥
「お盆‥‥プチュム・バン」
お正月と並び、カンボジア人にとって大切な行事「お盆」がやってくる。ポットロボの月の下弦の月一日から15日間、信心深い人はお寺詣りを続け、最終日を「プチュム・バン」と呼ぶ。
この期間に先祖が食べ物をとりに七つの寺を訪れると信じられており、もしお供え物が無いとわかると、先祖が災いをもたらすと恐れられている。この行事の手順について『クメールと音楽』をひもといてみよう。
まず、餅米にゴマや豆などを混ぜたお盆用のご飯を用意する。それから高杯(たかつき)を二つ。一つは先祖に、もう一つは行事をとりしきる寺の人(アチャー)に差し上げる。この高杯には果物やお菓子、米、お金などを載せる。
さらに、プカー・バンという皿を用意する。バナナの皮を円錐系に丸め、熱したバナナをひとかけら先端に詰め、さらに餅米を詰め込む。そして一日目には一つ。五日目には五つというように、日ごとに作り並べてゆく。
夕方になると、信者たちは死者を呼ぶお経を唱える。僧侶は食堂(じきどう)に入り、繁栄を願う経を唱える。そして人々に聖水をかけるが、これは食堂に死者の霊が入るので、その前に食堂内の地霊を鎮めるための儀式でもある。
僧侶は死者を弔うことの意義とか、この盆行事に関連する説法をする。明け方近くには、大僧正もこの行事のため色々な教えを説く。
朝四時ごろ。起床を告げる太鼓が鳴る。僧侶は本堂に入り経を唱える。信者たちは食堂に入り、お盆用のご飯を用意して祈る。そして僧侶が本堂を出て食堂に入り、「パラー経」という経を唱える。その内容は、12項目の仏教の教えに反する行為、裏切り、賭事、親不孝などについての戒めである。
「パラー経」が終わると、僧侶は死者への捧げ物をして、楽隊の演奏が始まる。
読経と楽隊の演奏は絶え間なく続けられ、信者たちはお線香を五本立てた、お盆用のご飯を手にして本堂に向かい、「ご飯投げ」と呼ばれる儀式をするために本堂を三周する。
一周ごとに信者は「サートゥ」と叫んで一握りのご飯を土の上に落とし、さらに一本の線香や蓮の花などを土の上にさす。これを三度繰り返す。
それから、寺の外にある精霊小屋の近くか大木のところへ行き、残ったご飯をそこに置く。これは無縁仏に捧げるためである。このとき、手や皿を洗ってはいけない。それは食べ物を受け取っている最中の死者に対して無礼なこととされる。
それから、信者たちは食堂へと戻り、僧侶の朝食を準備にとりかかる。
八時ごろ、近隣の人がお盆用のご飯、料理、お菓子、花などを持って寺に集まる。そして、並んだ托鉢の鉢にご飯を入れてゆく。これは11時ごろまで続けられる。
11時に再び太鼓の音が響く。そして僧侶たちは昼食をとる。
この一連のしきたりは14日間続く。そして最後の日は「プチュム・バン」と呼ばれるが、プチュムは「集まる」という意味で、特に沢山の人が集まり、捧げ物も多くなる。
最終日の夕方になると、人々はバナナの根や木で、先祖があの世に帰ってゆくための舟を作る。この舟には、死者の食べ物にと、米や豆やトウモロコシ、ゴマなどを入れた小さな袋を載せる。そして翌朝、舟を水に浮かべる。
今年は九月七日からはじまり、クライマックスは21日だ。カンボジア人は先祖の供養をする際、命日よりもプチュム・バンを大切にしている。