「毒入りきけん食べたら死ぬで‥‥事件の悲惨な顛末」
日本でもカレーやウーロン茶に毒が混入され大騒ぎになっているが、ここ一ヶ月のプノンペンも、毒入り事件で終始した感がある。
始まりは先月21日、保健当局が明らかにした、プノンペン郊外(ポチェントン)での村人死亡事件だった。それによると、安物の酒を飲んだ村人が、少なくとも23名(最終的には40名以上)死亡したということで、原因は酒に水増しのため入れたエチルアルコールが原因という説と、濃度を増すため入れられた殺虫剤のせいだという説の二つが有力である‥‥ちなみにこの国では、酒を醸造する際に殺虫剤を入れるとアルコール度数が上がるという、ワケのわからない迷信が広く信じられている。
この翌日から、町に良くない噂が広まり出した‥‥。
いわく「市場の肉まんに毒が入って人が死んだ」「瓶詰めの水に毒が入っていた」「ベトナム人が売っているサンドイッチに毒が‥‥」「××市場のクイッティオを食った人が突然‥‥」などなど。
気のせいか救急車の往来も普段より頻繁に感じられ、カルメット病院は「自称」毒で死にそうになった人々でベッドが足りなくなるほど。
その翌日、新聞に「貯水槽に青酸化合物を入れようとしていたベトナム人が逮捕(真実は不明)」という記事が載ると、事件はすべてベトナム人が仕組んだというデマが町を支配し、その翌日も、翌々日も、「村の水ガメに毒を入れようとしていたベトナム人の子供逮捕」とか「市場で食べ物に毒を入れていたベトナム人逮捕」などという記事が掲載されるに至って、もともと最悪だった反ベトナム感情が一気に爆発。
すると、飲食物を売るベトナム人が次々に攻撃され、運が悪いと殺されてしまう者まで出る始末。
わたしが知る限りでも、ポチェントン市場近くで殺虫剤を持って歩いていたベトナム人が、「それを食い物に入れるんだろう?」というムチャクチャな因縁をつけられ、辺りの男数名にボコボコに殴られている。
そんなことがあって、町では「反フンセン派が、ベトナム人攻撃の口実にデッチ上げたデマ」だとか「いやいや、あれはフンセンがベトナム人を使ってやらせているんだ」など、様々な憶測が飛び交うことになった。
ところが数日後、突如として新聞に「毒入りの噂を流していた男女・逮捕」という記事が掲載。横には、おそらく逮捕時に殴られたのだろう。グチャグチャに変形した男女の顔写真が載せられていた。
記事によるとその男と女は、「故意に毒入りの根も葉もない噂を流したり、何かを食べ終わった後に倒れるフリをして社会不安を煽った」とのこと。
ただし、この男女が二人だけでプノンペン中の毒入り話をデッチ上げられる筈もなく、実際病院にかつぎ込まれた人だけでも百名を越えている。そんなわけで、真相はご想像通り闇の中である。チーン‥‥。