少女売買の実体
すべて貧乏が悪かった‥‥
実話・売られてゆく少女たち
13歳(日本の年齢では11〜12歳)の少女がモノのように売買されている。
今回紹介する少女を人買いに売ったのは、何を隠そう実の母親だった。
冷たい新鮮な風が吹くメコンの川岸で、大勢の人が夕涼みを楽しんでいる。
夜の八時‥‥恐れ、怯えながら歩く痩せた少女の顔色は悪く、血の気はまったく感じられない。
少女の隣には、年増の女性と中国人らしき男が並んで歩いている。知らない人が見ればまるで親子のようだ。
そこから南に50メートルほどの場所には警察署があり、前には警官たちが立っている。そのとき、少女は突然叫んだ。
「おかあさん!わたしを助けて!連れていかないで!」
年増の女性は居心地悪そうに左右を見回し、少女に怒鳴った。
「警察が助けてくれると思ってるのかい?。なんにもしてくれないよ!」
怒鳴りながら、年増の女性は少女を何度も蹴った。彼女の言う通り警察はなにもしてくれず、少女は恐怖のあまり逃げる気力も失せてしまった。
そのとき、一人の通行人が三人に声をかけた。
「あんた、こんな小さな子供になにをしてるんだね」
年増の女は慌てたせいか、思わず訳のわからないことを口走った。
「この子は私の金を盗んだのよ!」
二人は少女の手をひっぱろうとするが、少女はその場を動こうとしなかった。
「わたしはお金なんか盗んでいません!この人た
ちは、わたしを置屋に連れて行こうとしているんです!」
少女は泣きながら訴えた。
「置屋がどんなところか、わたしは良くわかりません‥‥」
そばで話を聞きつけた通行人たちは、少女を連れて行こうとする二人の前に立ちふさがると、口々に彼らを非難し、警察に連れて行けという声もあがりはじめた。
それを聞いた二人は、取り乱した表情でその場から飛び出すと、たまたま近くにいたバイクタクシーに乗って、少女を置いたまま闇の中に消えてしまった。
その後、無事に保護された少女は、泣きじゃくりながら身の上話をはじめた。
‥‥わたしの名前はピッタースラワンです。歳は13歳になります。先ほどの女の人は母親で、父は兵隊でしたが戦死してしまいました。戦死者手当てが毎月ありますが、僅かなお金で食べていく足しにはなりません。兄弟は三人で、わたしが一番上です。つい最近まで、タクマウにいました。
少女の家族は父親の死後、タクマウにある親戚の家に居候していたが、いつまでも世話になる訳にもゆかず、行くあても無いまま、プノンペンまでたどり着いた。
泊まるところも無いまま、一家はワットプノム近くの路上に寝起きするようになる。それから四〜五日で現金が底を尽きはじめ、母親は膝をかかえ途方に暮れていたが、寺のまわりには同じような境遇の者が大勢いたという。
一家はのこり僅かな金で線香やハスの花を買い、路上で道ゆく人に売り歩いた。そのうち妹が病気にかかり、熱を出し苦しんでいたため、仕方なしに知り合いの老婆に頼み込み、妹だけ老婆の家に預けることになった。
最初はやさしかった老婆だが、ある日突然、金を要求するようになり、毎日の少ない売り上げから強制的に支払わされることになった。名目は宿泊代、食事代、薬代など様々で、それでも妹の病気は悪くなる一方だった。家族は妹の看病で仕事がおろそかになり、ついに老婆の要求する金が払えなくなってしまう。
「最近は金をくれないが、どうしたのかね!」
母親はなにも答えられなかった。老婆は病気のこともなにもかも知っていながら、金のことしか考えていないようだった。
一家は仕方なく、翌朝妹を老婆の家から出すことにした。そしてまた、ワットプノムで線香とハスの花を売りはじめたが、その頃、寝ている間に泥棒が来て、お金と衣服を全て盗まれてしまう。
母親は泣きわめき、仕方なく少女が一人でハスの花を売っていると、どこからかお年寄りが近づいてきた。
「一人かね?。わしと一緒に住まないかね。一ヶ月二万リエルあげよう」
少女はさっそく母親に相談した。母親はお年寄りのところには連れてゆかず、かわりに小さな店へ少女を連れて行った。そこでは大勢の男が座ってトランプをしていた。
母親が店の主人と話している声が聞こえる。
「いくら欲しいんだ?」
「20万リエル‥‥」
「五万リエルならいいよ。新しい服を買ったり、こっちも金がかかるからな」
母親は店の主人から金を受け取ると、そのまま一人で帰ってしまった。少女は売られてしまったのである。
さっそく主人と店の女が来て、少女に派手な服を着せた。その日の夜、白い車に乗った中国系の男が店に現れ、少女の前で主人となにやら交渉をはじめた。
「わたしは何をすればいいんですか?。こんな服を着ていていいの?」
「おまえはその人についていけばいいんだよ」
夕方、少女は男の車に乗せられた。彼は細い目で少女に訊ねた。
「プノンペンは初めてか?」
「はい」
少女はプノンペンの地理をよく知っていたが、うそをついた。男は安心したのか笑顔でうなずくと、少女を屋台の甘物屋に連れてゆき、自分は車を停めて近くの店へタバコを買いに行った。
呆然とカラオケ店の派手なネオンを見つめていると、不思議に思ったのか、甘物屋のおばさんが少女に話しかけてきた。
「なんだかボーッとしてるけど、大丈夫かい?」
「‥‥。わたしは置屋に売られて、今夜あの男の人に連れて来られたんです。でもわたしは置屋がなにをするところか知らないの」
「あ、あんた、早く逃げなさい。置屋は男と一緒に寝るところだよ!」
少女は全てを理解し、おばさんからもらったお金でバイクタクシーに乗ると、ワットプノムにいる母親のもとへ逃げ帰った。
「おかあさん!あの店は洗濯をする店じゃないのよ。売春婦の店なのよ!」
母親は無言で少女を睨むだけだった。すでに貰った金を使いきってしまった母親は、もうどうすることもできなかったのである。
「この女郎め。安心してたら逃げやがって!帰るぞ」
いつの間にか、母親の後ろにはさきほどの男が立っていた。どうやら密かにバイクタクシーの後をつけていたらしい。こうして冒頭のシーンに戻るわけだ。