第三回


 父の葬式を終えたチェットは、思わず悲観的になった。

「アアー、神様。とうとう一人ぼっちになりました。父も、母も、兄弟も、親戚も、誰もいません。とうとう孤児になってしまいました」

 そして、父の言葉を思い出すのだった。

 ‥‥チェットよ。もし父が死んだら、おまえの命は川の真ん中に浮いて、流れている木片のようなものだ。

 チェットは考えた。この世界は大きく、そして広い。他の人たちは生活が楽しい。しかし私はその逆で、父母、兄弟、親戚のいない孤児だから、生きてゆくのは非常に厳しく難しい。誰にも頼ることはできず、そして誰も助けてはくれない。そして仕事もない。

 アア、どうして私は生まれて来たのだろう。苦しくて死にそうだ。

 しかし、男として生まれてきたからには、恐れることはない。この問題もいつかは解決するだろう。そして白黒はっきりするだろう。

 仕事をさがそう!

 家の角で空を見上げると、月が漂う雲の間から顔を出し、周囲を明るく照らし出していた。涼しい風がそよそよと吹き、お寺からお坊さんの唱える経の声が、風にのって漂うように聞こえてきた。

 そのとき、一人の男がこちらへ歩み寄ってくるのが目に入った。誰だろう、なぜだろう、男が近づいてくると、それが父の死を看取った医者であることがわかった。

「先生、どうぞ、どうぞこちらへおいでください」

 医師は足をすすめ、階段を登り、椅子に座った。そして優しい声で尋ねた。

「チェットさん、元気にやってますか?」

「はい‥‥。しかし、父が亡くなってからというもの、意識がもうろうとして、はっきりなにも考えることができません」

 医師はうなずきながら言った。

「いま、なにか仕事をされていますか?」

 チェットは、元気なく答えた。

「はい、ここで仕事を探しているのですが、まだ見つかりません。どの仕事も私には難しそうで、一生懸命勉強すればできると思うのですが‥‥ただ、色々な店や屋台を見て回ったり、町をぼんやり眺めているだけです」

「チェットさん、私も時折、お爺さんのことを思い出します‥‥ただ、あなたは男です。多くの問題と取り組まなければなりません。あなたのためになにをすれば良いのか、少し考えてみましょう」

 チェットは黙って医師の顔を眺めた。しばらくすると、医師の顔が明るくなり、微笑みだした。

「良いことを思い出しました。私に一人の養父がいます。彼は優しい人で、巨万の財産を持っています。あなたは彼の仕事を手伝えるでしょう。苦労するとは思いますが‥‥」

「立身出世のためなら、どのようなことにも従います。どうか仕事をさせてください」

「しかしチェットさん、仕事はこの土地にはありませんよ。パイリンの田舎です」

「パイリンですか!」

「なにも恐れることはありません。養父は以前官使でした。名をソンバットと言い、歳は50です。二週間ほど前、彼から手紙で人を探していると聞きました。正直で忠実な人を紹介してくれと‥‥。仕事は宝石掘りです。もし同意するなら、急いで支度をしなさい。私はあなたを信頼しています。一生懸命働いて、彼の気に入られるように」

 チェットは、感謝のあまり手を合わせ、医師に合掌した。医師は一通の手紙を書くとチェットに手渡し、帰って行った。(つづく)



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