第三回「北京菜館」
モニヴォン通りを北上し、かつて高級ホテル、現在中級ホテルになってしまった市内ダイヤモンドホテルの角を右折すると、安めの中華料理店ばかりが並ぶ中華ストリートにブチ当たる。
この通りには旨い店からまずい店まで、あれこれ十軒近くもの似たような店が並んでいるが、そのなかで最もハズレが無く、かつ日本語メニューを完備していることでつとに有名なのが、今回紹介する「北京菜館」である。
以前は必要以上に愛想の悪いババアが、居るだけで店の格を二ランクほど貶めていたが、殺されたのか帰国したのか何時の間にか姿を消し、彼女にかわって何カ月か行方不明で、ラーメンのダシにされたという噂の立っていた、メガネの若い中国人が復活して店を仕切っている。彼はとっても愛想が良く、気持ちのいい男である。
この店のお勧めはなんといっても焼きギョーザ、水ギョーザだろう。十個で1ドルの餃子は、日本のものに比べ幾分皮が厚いものの、ジューシーで出来立ては本当にうまい。お持ち帰りもできるので、おやつ代わりに買いに来る客が後を絶たないほどである。
ほかにもビールのつまみに最高の白菜炒め、揚げ豆腐の肉かけなど、日本人の口に合う料理がいっぱい。そのためここは始終日本人の出入りが絶えず、キナ臭い密談には適さないのが残念である。
メシ時ならいつでも開いているが、夕方からはエアコンも入り、まあまあ涼しいのでお勧めとしておこう。余談だが、北京菜館の二軒となりにも、日本語のよく通じるシンセン大学卒の店員がいる中華料理屋があったのだが、この店員、先頃繊維関係の会社にヘッドハンティングされ、こちらは普通の店に成り下がってしまった‥‥。