激走カブレース
6月17日、プノンペンのオリンピックスタジアムで、マイルドセブン主催のカブレース決勝戦が行われた。
これまで三ヶ月の間、カンボジアの各地方都市で行われたレースにおいて、勝ち残った優勝者たちが、新品のスーパーカブをめぐり命がけで戦う究極の最終ラウンドである。
出場者は極限まで軽量化したスポーツカブに乗り、楕円形のコースを七周する。
コースの途中には砂袋を積んだ壁が交互に並べてあり、進入角度によってはこれに激突する者もいる。もともとここまで勝ち抜いてきた出場者たちは皆、気合いの入り方が違っており、乗っているマシンも原型を留めていないほど、あちこちに改造が施されている。
砂埃が舞い上がるレースの間、おそらく70パーセントは金を賭けていると思われる観客たちは超興奮状態。途中、中型オフロードバイクによる余興レースも行われ、カンボジアナンバーワンと噂されるフランス人・ピエール某氏が、ヤマハから提供された新品のバイクでボロ単車を蹴散らしながら優勝していた。
このカブレース、数年前から恒例のごとく毎年行われているが、スポンサーや会場は毎回異なっている。
三年ほど前にマルボロの主催で行われた、いにしえのレースでは、まだ参加者自体があまりレースというものを理解しておらず、おまけに一週間の合同練習が強制されたため、普通に働くカタギの人間はほとんど参加不可能。したがってポリスと軍人、そして強盗まがいのチンピラたちが参加者のほとんどを占め、コーナーでは触った触らないでケンカになり、ストリートファイトで決着がつけられたという。
信頼できる筋からの情報によると、そのときの優勝者は殺人で服役中の囚人で、この日のために両親が金を積み、警察の護衛付きでレースに出場したそうな。
そんな状態から比較すると、今回行われたマイルドセブンの大会は、とても紳士的かつ穏やかに終了したようである。もっとも、バイオレンスな展開を期待していた人には、若干退屈だったかもしれないが‥‥。