雨安居入り(うあんごいり)
今年は例年に比べ、めっきり雨が少なく本当に暑い。乾期に入って期待していた風の季節も、一週間ほどの「冬」も無いまま二月になり、とうとう三月にあるはずの小雨季もなんとなく無いままに過ぎ、最も暑い四月に突入。いまも連日連夜の猛暑が続いている。
それでも暦の上では、今年は七月十日が「雨安居(うあんご)入り」と呼ばれる、雨期の始まりの日である。
十月六日まで約三ヶ月の雨安居は、お坊さんは寺からあまり遠くへ行かず、静かに読経をする季節で、この期間、朝五時から毎日読経する。托鉢には出ても良いが、一泊の遠出をしてはいけない。そしてお寺には三ヶ月用の大きなロウソクが用意される。
雨安居明けの半月前、旧暦アサッの月一日(今年は九月二二日)から約一ヶ月間、雨期の間に袈裟がボロボロになってしまったお坊さんに、法衣を差し上げる儀式「カタン」が行われる。
この「カタン」はカンボジア人にとって、正月やお盆についで大切な年中行事である。
「カタン」については、再び詳しく紹介するつもりだが、今回はどうして「カタン」をするようになったのか、『クメールと音楽』を開いてみることにしよう。
釈迦が悟りをひらいた頃、修行僧(227の戒律を守る僧‥‥ピコ)は、経を唱えてからはぎ取った死者の衣だけ、身につけて良いとされていた。
釈迦(仏陀)がチェイタボン寺にいらした時、パワー国に居た30名の僧は、どうしても雨安居入りまでに、仏陀に謁見したいと思い旅立ったが、途中で雨期になってしまった。
しかし僧たちは一刻も早く謁見したいと、雨の中先をいそぎ、雨でびっしょり濡れた姿で仏陀に謁見した。これを見た仏陀は大変お悲しみになり、人々から法衣を寄進してもらっても良いこと、さらに五つのことをお許しになった。
一・外出するとき、同居している僧に断らなくてもよい。
二・托鉢時、袈裟や道具が揃ってなくてもよい。
三・道中、木の下などで食事をとってもよい。
四・寺の中以外では、袈裟をどこに置いてもよい。
五・寺に寄進された袈裟は、成年僧がもらってよい。
以来、修行僧は人々からの法衣の寄進や、お布施を受け取ることができるようになった。
日本にいるとき、カンボジア人が「雨の降っているところと降っていないところが分かるんだよ」と言うのを、わたしは信じることができなかったが、いまこうしてカンボジアに居るとそれが納得できてしまう。
そして昨日の天気を訊ねると、地区によって答えが違うのに戸惑ったりということもある。いい天気は「雨」という人さえいるのだから、所かわればなんとやらだ。
ところで、どなたかチェイタボン寺、パワー国は日本語で何と訳されているか、知っていらしたら教えてください。
(小味かおる)