匿名希望・言いたい放題
素晴らしい航空会社・それはカンプチアエアー
カンプチア航空が、頻繁にバンコク〜プノンペン往復99ドルというダンピングチケットを売り出している。ロイヤルカンボジア航空と比較してみると、なんと半額を行く安さじゃないか。これは買わなければ損だと思い、さっそく購入してバンコクまで遊びに行くことにした。だがしかし‥‥。
出発予定日の夕刻、荷物を持ってポチェントン空港に行ってみると、チェックインカウンターでは笑顔のひきつった女が三名、客など眼中にないわよ、といった表情で、なにやら楽しそうに談笑している。わたしは話の腰を折って、トイレ横の席にされることを恐れていたので、気を使いながらタイミングを見計らい、おずおずとチケットを差し出すと、その中のひとりが勝ち誇ったような顔で、こう叫んだ。
「あー今日はフライトキャンセルです。市内までは無料で送迎しますから!」
無料で送迎!のところに99パーセントの重きを置いた発言である。ここでゴネても所詮カンプチアエアー。体力の無駄だと思って素直に了解すると、しばらくしてからボロボロのマイクロバスが二台、出発ロビーに横付けされた。
‥‥が、ここで、バスの乗務員がニタニタしながら近づいてきて、耳元でこんなことをささやくではないか。
「フヒヒ、あんたずいぶん得したじゃない。ツイてるねえ」
最初はなんのことを言っているのか理解できなかったが、実は白人客の数名が執拗に抗議したため、なんと一泊40ドルの中級ホテル・シャラトンホテル(シェラトンではない)に、二泊タダで泊まらせてくれることになったそうだ。
ちなみに別の便でキャンセルになり、大人しくしていた日本人たちは、一泊20ドルほどのメコンホテルをあてがわれたというわけで、カンプチア航空は抗議の度合いによって戦略を変えてくるらしい。
しかしながら、往復99ドルなのに、いきなり一泊40ドルの宿に二泊も泊めて、採算とれるのだろうか?。そのへんは考えないことにしよう。
‥‥二日後、我々はバスで空港に連れていかれ、何事もなかったかのように、夜七時発の便に乗せられ‥‥るはずだったのだが、またもや原因不明のトラブルで一時間半も待たされた挙げ句、さらに機内に入ってからも、飛行機は飛ぶ気配を全く見せようとしない。
エアコンを切った機内はまるでサウナのようにクソ暑い。乗客たちは皆、流れる汗を拭きながらイライラした表情で、さきほどから流されている脳天気な機内音楽(タイのしょうもないポップス)に耳を傾けている。
ウーそれにしても遅い。もう乗ってから一時間は経つじゃないか‥‥そう思いつつ、窓の外を眺めると、それまで真っ暗だった貨物室の明かりがいきなり灯され、いままで見えなかったものがクッキリと見えた。
そこには薄汚い貨物専用トラックが三台停められており。周りには上半身裸の男たちが十名ほど群がっていた。彼らはトラックに満載されたワケのわからないダンボール箱を、ガンガン飛行機の中に投げ込み、その横では空港職員らしき男が、トランシーバー片手に怒鳴り散らしながら、作業をやめさせようと必死になっている。
そうか。客の埋め合わせを貨物で補っていたのか‥‥。安さの秘密がわかったようで、一瞬トクした気分に浸れたが、それにしてもまだトラック一台分の箱が残っている。果たして今日中にバンコク着けるのだろうか?。
暗澹たる気分に落ちていると、いままで一人だった怒れる空港職員のところに、建物から数名の応援部隊が駆けつけ、トラックの男たちを半ば強引に飛行機から蹴散らすと、まだ貨物を残したトラックを無理矢理ベルトコンベアからひきはなし、飛行機は滑走路にいくつかのダンボール箱を落としながら、やっとのことで離陸してくれた。
結局バンコクに到着したのは、当初予定から二日後の深夜11時すぎ。これなら陸路で行ったほうが早いじゃないか‥‥。あてのない放浪の旅でもしているような人には、さぞかし面白い体験だったかもしれないが、とりあえずわたしはもう二度と乗りたくない。