カンボジアねほりはほり・指輪職人に体験弟子入り(後編)
市場の両替屋で銀を買い、元ドゥシットホテルの宝石職人・フォーさんに指導されつつ、叩いて伸ばしてあぶって‥‥ようやく長方形の棒きれが出来上がった。
石を載せる側を太くするため、伸ばした棒を金切りバサミで菱形に切り取れと言われるが、その三秒後、手元が狂ってやっと伸ばした銀の棒を、まっ二つに切ってしまったわたし‥‥。
しかしフォーさんは半ば予想していたのか、ニヤニヤしながら動じる様子をまったく見せない。彼は作業台に置かれたフイゴ式の手動バーナーをひったくると、わたしに足でフイゴを動かしていろと命じ、そのまま怪しげな薬品を切断面に置いて炎を浴びせ、アッという間にくっつけてしまった。うーむ。
気をとりなおして作業を続けよう。細長菱形(?)にした銀を湾曲した型のなかに入れ、ハンマーで少しずつ曲線をつける。横から見て「く」の字型になったら、丸い芯棒に当てながら再びハンマーで叩き、指輪の形に丸くしてゆく。そして接合部分にまたまた謎の薬品を載せてバーナーで燃やすと‥‥あらら、くっついちゃった。というわけで、意外なほど簡単にリングが出来上がってしまった。
指輪らしきものはできたが、まだデコボコのゴツゴツ。このままハメたら指が血だらけになるだろう。ここから根気の作業がはじまる。
指の形をした鉄の棒に、できたばかりのリングをハメこみ、ノミのような謎の工具と、目の細かい棒ヤスリで必死に周りを削りまくり、指に直接触れる部分をツルツルに仕上げてゆく。最後に紙ヤスリをかけると、見た目はツルツルピカピカのシルバーリングができあがってしまうが、しかし今回は練習の意味もあって、これに石を埋め込む作業までしなければならない。
石を入れる部分を決めたら、キリでその中心に目印の穴をあける。そして、先ほど削り取った余り銀を再び溶かし、石をのせる台座を作る。作り方は(書くだけなら)とっても簡単。石の大きさに合った棒を芯にして銀を丸め、できあがった銀の筒と同じ大きさの穴を、キリを使ってリングに開けてやればよい。
現実は指先を血だらけにしながら穴をあけ、ヒーヒー言いながら台座の筒をハメこみ、例の薬品を穴の周りに並べ、バーナーでくっつける。台座が無事リングと一体になったら、いよいよ石の取り付けである。
フォーさんが奥から持ってきた必殺兵器・ゴムの塊を溶かしながら、リング全体をゴムの中へ埋め込んでゆき、作業台から動かないようにしっかり固定する。そしてレンズで作業部分を拡大しながら、台座の頂点に切れ込みを入れてゆき、石をハメ込む、そして台座のてっぺんを内側に折り曲げ、落ちないように加工して一件落着。しかしながらこのへんの作業は、流石に今日来たばかりの小僧にできるはずもなく、親方が黙々と仕上げてくれた。
見事に石がハマったら、ゴムの塊からリングをはずし、機械にかけて全体を磨いて、さらに煮沸して洗剤と金タワシで根気良くゴシゴシと磨き完成!。
ここまで約四時間弱。指輪ひとつ作るのが、ここまで重労働だとは思いもしなかった。こんな手間のかかるものを5ドルで売ってたんじゃ、全然割に合わないよなあ。などと思いつつ、血のにじむ指をこすりながら家路についた。